電脳遊戯 第12話 |
「セブンが室内に入りました」 セシルの言葉に、皆固唾をのんだ。 今まではロッカーに入って無事だったが、今回も大丈夫とは限らない。 だが、セブンはロッカーの上部にある小さな切れ込みの隙間から中を覗き込みはしたが、それだけで部屋を後にした。 ほっと、皆が安堵の息を吐く。 ルルーシュはセブンの接近に気付くことなく眠り続けており、ルルーシュが目を覚ますまで眠らせておこうという事となった。 朝の7時を過ぎていたため交代で短い休憩をとり、料理人に大量のサンドイッチとスープを用意させた。 大半はスザクとジェレミアの胃袋に消えたが、流石にセシルたちも空腹だったのだろう、昨日よりもたくさん食べていた。 仮眠もとり、シャワーも浴びて幾分か頭がすっきりした顔で戻ってきたC.C.は、画面の中のルルーシュがまだ眠っている事を確認すると、炭酸飲料を口にした。 昨日持ってきた物は全て飲みきっていたため、先ほどギアス兵に買ってこさせたそれは冷たく、強い刺激と共に喉を潤した。 「ん?枢木とジェレミアはまだ戻って無いのか?」 自分より先に休憩したはずの二人が居ない事にC.C.は首を傾げた。 「ようやくこのゲームをプログラムした人が見つかったんです」 C.C.が使用していた探索用のモニターを見つめながらセシルが答えた。その横の机でロイドが眠って居たはずだが、その姿も無い。 「ああ、やっとか」 セシルの言葉にC.C.は嘆息した。 ギアスを持っていたのは地下に捉えている男だが、プログラムをしたのは別の人間だった。ゲーム制作に明るい若者4人を雇い入れ、自分の思い通りのゲームを作り出していたのだ。 男は、ゲームの攻略本ともいえるプログラマーの居場所を口にする事は無く、ずっとニタニタと笑いながら「シャルル皇帝万歳!!オールハイルブリタニア!オールハイルシャルル!」と叫ぶだけだった。 ギアス兵に命じ、男の屋敷をくまなく調べ、僅かな痕跡を探し、細い糸を手繰り寄せ、ようやくそのプログラマーを捉えたのだ。 忠義の騎士と唯一の騎士が動かないはずがない。 とはいえ。 「そいつらの口を割るのに便利な能力は、今この中か」 あっという間に情報を引き出せる男は画面の中で静かに眠っていた。 「え?」 スザクは思わずわが耳を疑った。 既に拘束され、牢に入れられている男たちは困惑した表情でスザクを見つめた。 「ですから、マップはランダム生成・・・いくつかあるパーツから自動的に組み立てられるため、現在どんなマップかは俺たちにも解らないんです」 「では出口は!?」 「マップが作られた時に設定されるので、どこに出るかはわかりません」 「ふぅ~ん。あくまでもランダムなんだ?でも、決まりはあるはずだよね?扉をくぐるとか、特定の条件を満たすとか」 「はあ、それはありますが・・・」 男たちは、どうして拘束されているのかが解らず、顔には不安と怯えが浮かんでいた。 自分たちが組み上げたゲームが皇帝を捕えるための道具として使われたことなど考えてもいないだろう。 このままだと聞きだすまでにどれだけ時間がかかるか解らないと、ロイドは眼鏡をくいっと押し上げた。 「君たちには信じられない話だと思うけどね。このプログラムを依頼した人間は、君たちの作ったゲームの中に、我が君を閉じ込めてしまったんだよ」 「ロイドさん!」 「ロイド!」 一瞬、はぁ!?何言ってんだこの人?という顔でロイドを見ていたプログラマーたちは、その後ナイトオブゼロと軍人が険しい顔でロイドを止めたため、まさか、本当に!?と、顔色を青ざめさせた。 「普通では考えられない事を、君たちの雇い主は可能にしてしまった。陛下は既に2日もの間、君たちのゲームに囚われている。陛下を救出するため、もちろん協力してくれるよね?」 いつになく冷たい視線でそう告げたロイドの言葉に、プログラマーたちは暫し互いの顔を見合わせた後、大きく頷いた。 「若き賢帝ルルーシュ様の危機なら、自分たちにできる事はさせてもらいます!」 「陛下のおかげで、無能な貴族が地に落ちて、俺たち凄く嬉しいんです!」 あの貴族も、逆らえば今後どうなるか解っているんだろうなと脅し、まともな生活など到底出来ない小遣い程度の給料で連日休む暇なく働かされていたのだ。 あのプログラム完成後連絡が来なくなって安堵していた。 貴族の地位が崩れ落ち、もしかしてもう呼び出されないかも!?ならば自分たちで会社を作らないか!?という話しをしていた所、ここに連れてこられた。 貴族社会を破壊してくれたルルーシュ様のためならば! プログラマーたちは顔に生気をみなぎらせ、力強い視線を向けてきた。 「賢帝、か」 スザクは思わずポツリと漏らした。 まだ、ゼロレクイエムの下準備段階。 ルルーシュは悪を行う前に、善を行っている段階だった。 古い政策を全て消し去り、貴族と皇族という地位さえ消した。 強硬政策が多いが、それでも上流階級に虐げられていた一般人にとって、救世主といってもいいほどの改革を行っているのだ。その麗しい容姿と相まって各雑誌や新聞ではルルーシュの話題が尽きない。 正義の皇帝、賢帝。 その言葉が必ず使われる。 善である者が悪に落ちる。 それは最初から悪であるよりも、より大きな悪となれる。 より多くの憎しみと、怒りを集められる。 それを知らない彼らは、賢帝を救わなければと迷うこと無く口にする。 ルルーシュが正義の仮面を脱ぎ捨てるまで、誰も彼が悪だなんて思わない。 黒の騎士団とシュナイゼル派、旧皇帝派以外。 「じゃあ、協力をしてもらおうかな。いいでしょ?ジェレミア卿、枢木卿」 何かあっても陛下のお力でどうにかなるでしょ。 救い出しさえすれは、後のことはどうにでもなる。 不可能を可能にするだけの力を持つギアスがあるのだから。 「ああ、ルルーシュ様をお救いするためなら止む負えない」 「ええ、構いません」 彼らもいずれ、ルルーシュを救った事を後悔するのだろう。 スザクたちの承諾の後、ロイドはギアス兵に彼らの拘束を解かせた。 「それで、今陛下はどんなエリアに?」 拘束衣のベルトを外され、自由になった手を擦りながら訪ねてきた。 「ナイトオブゼロそっくりの敵が配置されているエリアだよ」 「「「え!?」」」 プログラマーたちの顔から一気に血の気が引き、顔をこわばらせた。 その様子に、尋常では無いとロイドたちは顔色を無くした。 スザクは彼らに早く説明しろと詰め寄ると、彼らは慌ててそのエリアの説明を始めた。 プログラマーたちから受けた説明。 それを聞き、顔色を無くしたスザクは慌ててその場を離れた。 今は何時だ!? ルルーシュは何時に寝た!? セシルから緊急連絡は入っていないが、タイムリミットは間違いなく迫っている。 最悪だ、なんて悪質なトラップを。 ルルーシュに対処など出来るはずがない。 ならば。 |